信号待ちでみた白い夢
秋葉竹
左の信号機の下
信号待ちの黒い傘のなかに
髪の毛乱したあの女がいる
憎しみの眼つきで
フロントガラスごしに
僕の目を焼こうとする
さらさらと降る小雨のなか
小さな涙粒のような
規則性があるという
過去のふたりの距離を思い出し
僕は初めて
さようならを言ったデスマスクを
血まみれにするイメージを
サイドミラーを覗きこむ僕の顔にみつける
むろんそんな女は実在しない
あの女の人は
見も知らぬ信号待ちのOL
ただ青になるのを待っているだけの。
しなやかな足で
足早に横断歩道を渡って行く
気づけば小雨は
やみかけていた
薄い
白灰色の雲の切れ間から
ひとすじの陽光が遠くの街路樹を照らす
さらさらと白い花びらが
降り落ちるような
明るさで。
その女の人が右の舗道へ渡りきり
それから行くべき道をまっすぐに歩き行くのを
女神に憧れる少年の優しい眼つきで
僕は見送ってギアをドライブに入れる
僕は僕の未来への道の途中で
立ち止まっていた過去の迷いを捨て去り
この白い花びら舞う街の風景へ向かって走り出す
新しい朝(あした)のなかへ。