すくわれない
坂本瞳子

何度も後ろを振り返り
何度も後退りをして
それでも前を見て
進もうと思う

転ばないように気をつけて
それでも転んでしまうときもある

飛び越えようとした水たまりを
飛び越えることができず
たくさんの泥を跳ねてしまい
お気に入りの白い靴を
泥塗れに汚し
惨めな気持ちで踏みにじられ
晴れることのない心を抱えたまま
とぼとぼと歩き続けているところを
強い雨に打たれ
横殴りの激しい風に吹き付けられ
雷が堕ちるのを目の当たりにし

これ以上怖い目に遭うことはないだろうと
心に言い聞かせて歩を進め
足音を立てず自分を追い越して行く黒猫に慄き
その尻尾を引っ掴んでやろうかという衝動に駆られるも
叶うことなく

雨の中を今少し歩き続ける
重苦しい鼠色の深い空に覆われて
くぐもる雷鳴が唸るなか
晴れ渡る空など忘れ
虹やオーロラなど夢の向こう側と
諦めを覚える


自由詩 すくわれない Copyright 坂本瞳子 2018-04-08 23:16:53
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