闇の中に浮かぶ
秋葉竹
赤い三日月が東、
その尖った切っ先から
なにかを滴らせている。
舌足らずなきみの言葉では
心に届かないなにかを。
この街にある
この国でもっとも高い建物のせいで
ほんの少し優しさが低くなったら
今度はぼくが悲しくなる。
ぼくの目からは、
それでもなにかは、流れないだろう。
きみがぼくを憎んでもいい。
ふたりして
ふたりとも
初めてこの世界に敗北し、
生きていくことの無意味を
噛みしめたのだから。
フルーツグミを食べるように。
甘あい熱情にこの身を委ねてみたくなる。
通り過ぎるふたりの距離は、
天王寺という地名の下に
夢を埋めたものだから
もうなにも滴らせないよ。
「きみの言葉ではないので、」と
その小さな悲しみのような諦めが
立ち止まるぼくを切りつける。
だから今この街に住むものは
だれも忘れられないのだ
あの赤い三日月の切っ先から
優しく滴り落ちるなにかの名前を。
知らなかったことを。
そして今もまだ、知らないことを。