鐘楼
ただのみきや
鐘を失くした鐘楼の
倒れ伏した影が黄昏に届くころ
わたしは来てそっと影を重ねる
深まりも薄れもせずに影は
その姿を変えなかった
わたしは鐘
貝のように固く閉じ
自らの響きに戦慄いている
水底のような街に暮らす
人々の等身大の時の流れを
鍵も扉もない空の向こうから
不意に人ごと丸呑みにする
永遠という虚無の大食漢を
剣の切っ先で威嚇するように
鐘楼は立っていた
だが時を告げ知らせる声は失われ
その偉丈夫とは裏腹に
倒れ伏した影こそが魂だったのだろう
わたしたちの影はいま溶け合う
遠い残響に震えながら
陶器の中の幽霊のように
互いにとても冷たかったが
ひとしずくの雨が影を影より暗くした
空耳のように後に続くものは何もない
《鐘楼:2018年4月7日》