トイレットペーパー
為平 澪
生協の宅配カタログと老女の一人暮らし
一週間生活するには一袋に四個入りで十分です
余るようなら
トイレットペーパーで鼻をかみ
水に浸けて汚れを落とす
それくらいは日常的
新聞だってクシャクシャに手もみして
紙を柔らかくしながら
お尻を拭いていた頃に比べると
紙質も便宜も使い勝手も良くなりました
ただ 家族が家に足りないという、その程度
生協の空欄に桁を二つ間違えて来た
二トントラックいっぱいの白い紙
部屋に入りきれないホワイトロール
周りの住人が遠方の息子夫婦に知らせたのか
トイレットぺーパーが老女の家から無くなるまでは
家族で暮らしたと言います
彼女が怒られたのか、嗤われたのか
虐げられたのか、は 知らないけれど
※
無知な娘のアパートでの一人暮らし
一番初めに無くなっていくトイレットペーパー
カラカラと乾いた軽い音を立てながら
人の一番汚い所の尻拭いをして
使い捨てられていく
実家にいたとき補充してくれていたその人の
胸の真ん中にもトイレットペーパーはあったのか
血の出ない大穴が空いて向こう側に通じています
トイレの横のゴミ箱で
老母の心臓が独りきり 不整脈になりながら
家族の帰りを待っています