水槽
春日線香
縁日で掬った金魚をどこにやっただろうか
庭の片隅、物置の陰のあたりに
古い水槽が転がっていて
水と水草を適当に入れて
そこに放り込んでおいた気がする
誰も世話をしないまま
ただ、気まぐれに思い出して
真っ青に濁った水の中を覗いていた
曇ったガラスの向こうに蠢く影を見て
まだ生きている、とか
思ったりして
追加の金魚を入れたこともある
不思議と金魚が死んでいたということはない
なかったと思う
死んだものもいたのだろうが
濁った水の中でいつまでも生きていた
そういう風に記憶に残っている
いつまでもいつまでもそれが庭の隅にあった
雨が溜まって水は心配いらなかった
雨水と金魚
枯れかけて茶色と緑が入り交じった水草
夏でも冬でも
一年を通してずっとそうだった
時々、思い出す
あの水槽はどうなったのだろう
もうあるはずはないのだけれど
今も必ずどこかにある
雪が積もった冬の朝などに
布団の中で寂しく思い出したりする