春の頬に落書き
ただのみきや
火の風船をだれかが突く
わからず屋のネクタイを締め上げて
笑っているが笑ってなんかいない
ゆっくりと傾いで往くビルにも死守したい角度がある
朽ちない果実の籠を持った老人
腐った果実を山盛りにした少女
薄曇りの絵具で下書きなしに描く死は
十七世紀に作られたアニメーションだ
象徴を写実して信仰と官能を一個のオムレツにする
忙しなく急かされている
「復元せよ」 発条と火花 うなぎの口笛
通りすがりの女のポケットに逃げ込んだ隠喩
埃っぽい行き止まりに尾行されているが
レモンを盗んだ手は乾く間のない街になる
《春の頬に落書き:2018年3月28日》