桜の樹の下へ
長崎螢太

夜明け、窓を開けると
空に、明星が瞬いている

テーブルにこぼした煙草の灰を
手で、掬いとっているうちに
夜が終わっていく

春先の暖かい雨は、降り止み
朝日が微かにひかる
神経が泡立つ



開け放れた窓
カーテンが揺れる先の
桜の花を眺める

花びらの散る音が聞こえる
薄紅いろの淡い
花の音
あるいは風の
うすい色

花吹雪で現れた銀幕に
記憶のかけらが、幾つも散っていく



目のまえに手をかざす
仄白く、青い指先
霞んでいく視界のなかに
幾つかのひかりをみる

いつの間にか、あたりは明るい
吹きこむ柔らかな風が、外へ誘う
春の淡い外気

足のうら
大地の感触を踏みしめ
桜の樹の下へ








自由詩 桜の樹の下へ Copyright 長崎螢太 2018-03-26 21:47:23
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