春の太鼓
まーつん

ポコポコ、ポコポコ

草なびく大地のどこかから
打ち鳴らす太鼓の響きが
聞こえてくる

訪れる春の気配に小躍りした若木が
己を縛る土のくびきから引き抜いた足で
刻むステップのように、軽快で香ばしい音色が

かつて
平らだと信じられていた世界を
宇宙の片隅にある椅子に腰かけた神様が
膝の上に乗せて、両の掌で叩いているんだろう

神様の手を覆う皮は
天地創造と、宇宙の運行を支える労苦に
ぶ厚く肥大し、幾本もの皺が寄り
カサカサに干からび、白い髭の下の唇は
こらえきれない喜びで笑みを結ぶ

古い被り笠のように、頭を覆うぼさぼさの髪
まるでイカれた乞食か、ヴゥードゥーの呪術師のようだが、
この人こそは、すべての父であり母

その力強い手が大地を叩くたびに
木々の枝から雪が払い落とされ
眠っていた地中の虫がびっくりして飛び起き
再び歌うべき愛を思いだした若い雄鳥は
連れ合いを探して広い野に飛び立つ

神の手が大地を叩くたびに
古いしきたりに支えられた王国は
老人の頭の中で崩れ落ち
黒く沸き立っていた憎しみは
拗ね者の瞳から剥がれ落ち
蒸発していく

世界を覆っていた
憂鬱な垂れ幕が落ちて
不意に立ち現れる世界は
新鮮な果実のように熟れて
鮮やかな天然色に彩られ
希望を投げかける

そして
僕もまた目覚めた
僕の中の何かが

二度と表に飛び出して
勝手な真似をしでかさないように閉じ込めた
自由を求める心が目覚めてしまった

この手で溶接した鋼鉄の檻の中で
まだ然程、老いていない肋骨の内側で
脈打ちだした第二の心臓
諦めという腐った土の下に葬った
美しい生き物が目を見開き
恐怖ではなく喜びをもたらすゾンビとなって
心の墓場から抜け出してきた

まだ生きようというのか
まだ苦しもうというのか
だが進もうが止まろうが
命はいずれ尽きるのだ

だったら好きに羽ばたくがいい、
我が心よ、

絶望し、喜び、泣き、笑い
己の行いの全てを受け止め
跳ね返してくる世界を相手に

抱きしめ、愛し、
その想いを刻み込めるよう

春の呼び声に応えて


自由詩 春の太鼓 Copyright まーつん 2018-03-25 20:56:39
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