霖雨の終わりで
flygande
工場の
金属板を打つ音が空に響き
僕はシートに深く座って
窓の外を見ている
電車は出発時刻を静かに待ち
構内のスピーカーの
沈黙が雨の音に聞こえる
涙は
いつも遠くから
そして人知れず湧く泉のように
秘密の水脈を辿り
十二人の幻は
どうしてか一人多いみたいで
そこに自分の姿が含まれていることに
気付いたのはずっと後になってからだった
ふもとへ向かって流れていく丘の枝桜
そんな映像も
もうとても擦り切れたものになったけれど
幸福の奥に
隠された悲しみが暴かれたとき
暴かれた悲しみのほうが真実に思えた
そのずっとずっと奥で
幸福の魚たちが
ひっそりと泳ぐ水域がまだあることも知らないまま
雨に濡れたクレーンが
指し示す曇り空の先に
虹色の輪が現れ、変わりつづける世界の
ほんの一角を照らしだした
僕たちがひとつずつ、ゆっくりと
重ねていった光の年輪
待ち構えていたように
電車のドアは閉まり
僕も目を閉じる
瞳の奥に
あの桜の景色が流れる
昼の練習室が
合宿所の夜のソファが
島へ行く船が
ドアノブに提げられた缶コーヒーが
後ろから見つめた四人の背中が
彼の狭い部屋が
風を待った海が
温かい手が、そして
色とりどりのグライダーが飛び交う約束の空が
涙が遠くから
ふいにこぼれ落ちたとき
何年もかけてその思いが
ここへ辿り着いたことをようやく知った
僕を守ってくれていた
この長く
この白く
このやさしい雨が止んだら
もう一度歩きだそう
水が染み出す
土の道をしっかりと踏んで
今度こそ見失わないように
大事な人たちと
遠く離れても
ずっと繋がっているための
秘密の水脈を辿っていこう