無題
◇レキ
お爺ちゃん
真っ昼間
海辺の無人駅に一人座った
何のために来たのかも分からないまま
海が見渡せる方の端っこの古びたベンチで昼寝をした
陽が傾いて折れたような首元に柔らかい光が当たった
見飽きた、大事に育てた花の蕾を軽やかに摘まれる夢を見た
悲しいとも思わなかった
風が少し冷たくなって
空と海の境界線に死んでゆく、鯨のような雲を見た
それは繰り返される陳腐な日常に成り下がっていると知った
雲から生まれた結晶はそれぞれの中にしか咲かないのだと知った
つまらないとも思わなかった
誰もいない
流れ星を見た
それは涙がつい、と頬に零れる速さの様だった
きっと忘れると思った
2018/3/11
お兄ちゃん
ほら終わりと、情が優しく微笑みかける
しくしく泣いてもいないのにって
死の手招きをしているみたい
ほら日常と、情が優しく爪を立てる
壊れて千切れてもいないのにって
拳で叱りたがっているみたい
ここにもいないのに
どこにも行かない
どこかに行くこともせず
どこにも行けない振りすらできず
無いように隙間にもぐりこむから
毎日が陽だまりに死んでいる
残ってしまった空っぽの生
力むことも諦めることも忘れてただ世間を浴びている
反転してゆく感情を噛みちぎればしたたる事からも逃げ
ただ呆然と光に目を眩ませる
(でも生きているなら)
例えそれが正しい悪意の残骸でも疲労した錆びた優しさでも
朽ちる事なく情はあるから生きてゆけ
2018/3/11
お姉ちゃん
ほら先に見えるよ
すっぴんの幸せ
どんな関係の煩わしさや自身のもろさにも
それはいつもある毎日に過ぎないから
めんどくさいな
決まり事ばかりの丁度よさなど
ばらまかれた水しぶきの全てを許せよ
枯れている事だって美しい
お日様の情にもたれ、枯れたから
けれど春の陽気に
あなたの思えるお日様色で花は咲くのよ
2018/3/11