酔っ払いの手記
ただのみきや
今朝は冷たく澄んだ風と光のやわらかな壜の中
――長らく闇を枕にうつらうつら微睡んでいたのだが
凪いだ二月の日差しは眼裏を揺らめかせ熱を奪い
夢のへその緒を焼く 声を失くした叫びが黒点となる
赤い葡萄酒さながらの甘い血よ
輪郭を解きながら影を濃くし燃え盛る向日葵のように
背比べの群生に滾りに滾った血はただ酸いばかりだった
季節の遠景 煤けた燐寸
霊安室に寝そべった
辺りと同じ体温になるまで
対流しながら様々な精神と交じり合い
失ってはじめて俯瞰した根源は白い記号のよう
なにひとつ解決しないまま時間は無言のまま
破壊と喪失
やがては変質
奇妙な熟成をもたらすかのように
今 わたしの血は冷たい人肌よりも
心地よく酔っているこの血に血が醸す精神の旅程に
灼熱の太陽と乾いた風
打ちのめす怒号のごとく冷たい雨また雨
ひ弱な枝葉を食んで群棲する棘を生やした虫たち
ああ浄化など一切あろうものか
あるのはただ酔いだけ
わたしはわたしの血に酔う
自分に酔うことは酒に酔うのと同じ
素面の目には痴態をさらして見えるだろう
それで結構
生きる限り痴れ者で
醒めるなんてもったいない
わたしだけの葡萄酒
インク替わりにして匂いくらいなら
《酔っ払いの手記:2018年2月28日》