インフィオラータ
岡村明子

風の暖かくなった
空から鳥が落ちてきた
インフィオラータを知っているか
無数の花びらで地上に大きな絵を描くのだ
極楽鳥や孔雀は空から落ちてこない
カラスとハトの
いつのまにか 大雨だ

足元を埋め尽くした 
灰色は
濁流となり
隙間を縫って
ネズミが疾走する

二センチの積雪で 電車が止まり
三十人も怪我人の出る東京だ
たちまち
足をすくわれ
落下する
カラスの嘴に
脳天を
割られ
鮮やかな
紅が
いくすじも
浮いて

のみこまれる

生暖かい空だ

灰色から
ぬっくと立ち上がった男がある
流されていく都会人をどんより曇った眼で眺めていたのは
今日がはじめてではない
長らく行く当てもなくさまよっていた男だ

舶来の祭りをするからと
住み慣れた公園の青テントを追われた男だ

灰色の
濁流の上を
花吹雪

散り敷く

男の復讐
達成される/されない
青い空の下で
男はそれがあることを知らない
復讐を描く地面
男は狂喜するが誰も見ていない

無数の花の死骸が描く
カルメンシータ
生ける骸は
生暖かい風の中に朽ちていく


自由詩 インフィオラータ Copyright 岡村明子 2005-03-18 01:24:43
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