おもてなし妖怪2018
るるりら
お控えなすって
ご当家の 軒先の仁義 失礼でござんすが お控えなすって
障子より目玉だけ出しておられる お坊ちゃんお嬢ちゃんも お控えなすって
わたくし生国は 大海原 水界のはてに発します
そこのお嬢ちゃん いま 小声で「おばけ」と おっしゃいましたか
そんな本当のことを言っちゃあ いけません
ま 「おばけ」と わたしのことをいう人も おりますが
ああ奥さん そうですか?奥に入れと? ありがとうでござんす
あいやー では ここに座って、つづきを話させていただきやす
そうです。わたくしは ただの鯨の身でございやす
今の姿は 御覧のような色白ですが
もともとは 黒ろうございました
黒い巨体を翻し 色めく水毬をかいくぐり
悠々ぱしゃりと海面を叩いたのが 昨日のことのようです
当時のわたくしは 詩がない一介の鯨でございました
びゅぅびゆぅと 空が鳴き ぐわんくわんと波のうねるその狭間に かすかに
ん~ ん~と 仲間の鯨の声が聞こえました。
人間のみなさまに解るように翻訳すると
悲し気なその声は海面一面に 油が浮かび
ちいさな炎が落ちてきたかと思うや否や
あたり一面 火の海になったという知らせでございました
ん~ん? ん~?と 必死に詳細を聞こうとしたのですが
聞けばきくほど 戦局の残酷非道さに聞いているだけで鯨骨が軋みました
巨体自慢の仲間のほとんどが 一瞬のうちに姿も形もなくなったばかりか
すべてが煮えたぎっているというのです
たすけてくれという他の声の主のほとんども
鯨界でも有名な横綱として名をならしたモノたちばかりなのです
詩がない あっしも みなを助けたいと ちらとは思いはしたのですが
オキアミどもの群れがいつもとは違う方向に全力疾走で逃げておりまして
ついつい 喰い気にかられて オキアミの後を泳いでいきましたら
調査捕鯨船のみなさまと ご縁があったのでございます
いやー あぶないところでした。海の藻屑となるところでした
気がつくと この身は 透き通るような身ではないですか?あぁよかったあ
このように うつくしく刻まれて食卓に上がっております
鯛のお頭つきの隣の小鉢が、わたしの席ですね。いやー めでたい