◎裸身
由木名緒美

山際に故郷を茂らせて
霧立つ河は唱和する
悠久の径を手引くように
水面には明かりの灯った小さな神輿が流れ
その一つ一つに幼子が蹲っている
名付けられた世界を知らず
生誕の由縁も語れぬまま
もの問いたげなそのひとみ
真っ白な悟りの布を産着にしつらえて
すべらかな肌にまとっている

今朝 轢殺された一匹の猫が
ゆきずりの弔い人に葬られるまで
ひしゃげた亡骸は惜しむように路辺を駆ける
日向を食む恒温動物も 岩肌のような爬虫類も
朝陽を浴びれば天を仰ぐ
地平線は命の系譜に沿って隆起していくのだ

赤い唇の錦鯉が
油蝉を誘惑する
あなたが私と結ばれたとて
鏡は塵ほども瞬かない
それでも貴石に恩寵を委ね
選択の繭をあやしつけては
光の子守唄を紡ぎ続ける

あらゆる星々は自律性を保っていたとしても
目の前の惨劇が 望遠の僥倖にしか映らないのなら
外殻の美しさなど滅んでしまえばいい
贖いの臍の緒が 彗星のごとくその眼を横切る時
蟻塚の街並みは理想の縮約を産み落とす
開け放たれたすべての窓が砕ける程の慟哭を
震撼させる一瞬の景観に
裸身の恍惚を捧げられたなら


自由詩 ◎裸身 Copyright 由木名緒美 2018-02-07 19:19:35
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