のびていく豆苗の先はどれも、ふたば
そらの珊瑚

 ふたば

冬の午後
水に挿した豆苗を見ていた
光を食べたその植物は
飛べない二枚の羽を
明日へ広げる


 さよなら

星はどこへ還るのだろう
色あせていく夜空
朝の襲来


 まちあいしつ

「かみさま」と
患者を呼ぶアナウンスに
立ち上がる人をみなが見る
あの人が神様か。
まるで人間みたい。
そよぐささやき
病院で患者に様をつけるようになったのは
いつごろからだろう


 のろい

冬の呪いが溶けて
路上の手袋ひとつ覚醒した
やわらかく息を吹き返せば
捨てられた記憶も戻ってくる
かたわれは今どうしているだろうか
春は残酷だ


 えとらんぜ

故郷へ帰るたび
あったものがなくなっている
旅館の跡地は駐車場に
シャッターを下ろした本屋
草ぼうぼうの公園は
空き家の庭みたい
知ってる、
こどもたちが去って
人でない何かが今の住人
電話ボックスがあった場所に
小さな花が咲いていて
空と交信している
(なくなるということは始まるということですか)
青いトランシーバー
即興の曲にえとらんぜという名前をつけて
口笛を
潮風に載せる






自由詩 のびていく豆苗の先はどれも、ふたば Copyright そらの珊瑚 2018-02-07 10:26:23縦
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