フラワー・オブ・ロマンス
もとこ

アタシに初めて薔薇が咲いたのは
十二歳の冬の日だった
ひとつ、ふたつとこぼれ落ちる
目が痛くなるような赤い薔薇
そのことをママに告げると
彼女は「やあねぇ」と眉をひそめた
それは悪い魔女の呪文のように
アタシの中に苦痛を刻んだ

それから薔薇が咲くたびに
アタシは棘の痛みに苦しんだ
図書室の本には薔薇の花が
気高く尊いと書いてあったのに
アタシを産んだママも
アタシを抱く男たちも
誰も薔薇を喜ばない
かわいそうな薔薇
役立たずの薔薇
薔薇はアタシ
無意味なアタシ

だからアタシは薔薇を憎んだ
アタシの薔薇を否定する
すべての人たちも憎んだ
そして今この瞬間から
薔薇を無意味にすると決めたのだ
アタシの中にもきっとあるはずの
薔薇を愛せない遺伝子を
アタシの代で終わりにするために

 アタシが罰当たりだと言うなら
 誰か薔薇を祝福してよ
 舌打ちしたり
 溜め息をついたりせずに
 アタシの薔薇を祝福してよ

赤い花びらが散らばる花園で
アタシは叫び続けるけど
答える者などいやしない
だって薔薇が咲いている間は
誰も花園を訪れないもの
この孤独こそ復讐の承認
許しておくれアタシの薔薇

いつか花園に終わりの時が来て
アタシの薔薇が咲かなくなったら
水分を失って変色した
薔薇の屍たちに埋もれて
アタシは静かに眠り続けるのだ
もはや永遠に訪れることのない
優しい王子様の夢を見ながら


自由詩 フラワー・オブ・ロマンス Copyright もとこ 2018-02-04 17:36:23
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