大蛞蝓
山人

 
樹林帯の中の一本のブナの木に粘液の足跡を残しながらその大蛞蝓はたたずんでいた。
雨は樹冠から大木の幹をつたい流れている。
大蛞蝓にとって、雨は自分の分身のようでもあり、慈雨の恵みなのかもしれない。
大蛞蝓の思考は分散し、樹林帯の霧に混合されている。
この煙る霧雨はきっと大蛞蝓の思考によるものなのだ。
あらゆる湿気が凝固し、大蛞蝓を生んだ。
そしてその湿気の塊である大蛞蝓は、新たなるどんよりとした思考を漂わせ始めている。
指で大蛞蝓の背中を圧してみる。
巨大な湿気を凝固させ、その生態を維持している大蛞蝓は逃げることもしない。
樹林帯を抜けると見晴らしの良い大地に着く。
やがて霧は失せ、にょきにょきと山並みが、むき出しの曲線を現し始めた。
膨大な湿気を樹林帯にまき散らかした大蛞蝓は、きっと今はいないだろう。


自由詩 大蛞蝓 Copyright 山人 2017-12-27 17:55:06
notebook Home 戻る