渚
そらの珊瑚
忘れていたことを
ある日ぽっかりと思い出す
潮が引いた砂地で
貝が静かに息をしているでしょう
見ればそこかしこで
生きていることを伝える
そんな穴が開き始めて
私の足裏とつながる
私の体とつながる
伸ばされた触手が
私の奥底とつながる
わたしが忘れていた時間も
あなたはここで
ずっと生きていたのね
何かになれると思っていた頃
海に架かる虹のむこうにさえ
泳いで行ける気がしていた
虹はそこでしか見つからないのに
私は私でしかないのに
気づけば
脱いできた靴はひどく遠く
小舟は翳り始め
夕暮れだけがすぐそばにある
波打ち際は白く泡立ち
素足を射るように冷たいけれど
生と死があやうくまじわるここで
ばかみたいにまた
優しい幻を探している