ひとつ 聞こえ
木立 悟




砂地に消え入りそうな輪が
柱の間をすぎてゆく
誰もいない中庭の風
轍の跡を消してゆく


壁にあいた
服のかたちの入口が
白い衣を手招いている
窓に映らぬ 午後の影の群れ


金属の糸の暗がりに
触れてははじく指があり
音は無色の輪を描きながら
原から原へ遠のいてゆく


かけらを呑み 笑みを呑み
異なる羽をひらき ひらき
数を数える不器用な息
遮るもののない空に渦まく


一とは限らぬ一があり
氷の雨がゆうるりと降る
夜の入口 二重の入口
遠く遠く見え隠れする


花ではない花まで咲きひらき
汁と匂いに死ぬものもいる
空を喰おうと空に近づき
燃え落ちて燃え落ちて 燃え落ちてゆく


黒い服と黒い髪
沈むことなく水に漂う
途切れ途切れに聞こえくるうた
午後の荒れ地を濡らすうた



















自由詩 ひとつ 聞こえ Copyright 木立 悟 2017-12-08 09:00:43
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