迷路
ただのみきや

小学生のころ
大きな紙いっぱいに
緻密な迷路を書いた
細いところで二ミリくらい
太いところで五~六ミリくらいの
血管のような道が幾つにもわかれ
そのひとつがまた幾つにもわかれ
それらがまた繫がったり行き止まったり
うねうねグチャグチャと
隙間なく迷路を書いた
スタートとゴールは確実に通じていたが
母も兄も本気で取り合ってはくれない
見ただけでウンザリしたのだろう
「どうせ繋がってないんでしょ」
まったく予想外のことだった


なぜこんな昔のことを思い出したのか
問いながら書いている


わたしの最初の二十数年は
繫がっているかどうか分からない迷路を往く日々
憧れと不安
引き回され追い立てられ
行き止まっては来た道に戻りグルグルと


次の二十数年は
スタートとゴールを一直線に太く繋いだ道
まっすぐで迷いも何もない
大きな声で歌いながら歩いていた
殉教者に憧れながら


そうして今わたしは
再び迷路を往く
複雑怪奇
自作自演の
グチャグチャにしか見えなくても
わたしだけが知っている
この迷路は通じているのだ
恐ろしいほど確実に


人生の前半 生の盛りの前
人は生きて往くことに不安を感じるという
そして盛りの山を越えると
今度は老いと死に不安を持つという


わたしは生にも死にもさして不安を持たず
むしろ早死にしたいと口走るが
日々の暮らしであれこれ煩い
ブツブツ呟いている
そう生も死も忘れ果て
脆弱な精神を醸し出して暇もない
だが生死あるいはそれ以上の問題が降りかかると
とたんに目を覚ます
これまでもそうだしこれからもそうだろう
そんな時のわたしはわたし以上に強靭で
恐れも迷いもなく選択し行動する
犠牲も惜しまない
まったくサムソンが酔いから覚めるが如く
脆弱に見える精神の底には強靭が
強靭に見える精神の底には脆弱が
沈殿して溜まっていたりするものだ
上手く撹拌されていなくたって
たとえむらだらけでも
生きていける


だから悩みは悩みであっても悩みではなく
迷いは迷いであっても迷いではない
この迷路はわたしの作で
確実に通じている
ただ今は道すがら
迷って酔って
悩んで病んで
詩人のふりなどしてふらふら歩きたい




                《迷路:2017年12月2日》











自由詩 迷路 Copyright ただのみきや 2017-12-02 16:09:12
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