故郷
ふるる

あおい青さためらわず空を切る
ほそい黒さ電線の緊張感
きちんきちんと背の美の電柱

アスファルト ヘイ モノトーンを下地に
立ち並ぶ看板
幼稚園で使いまわしたクレヨンみたく
いろんな大きさ、色、
夜にはぴかぴかリズミカルに光り

入日のビルは黒ぐろした渓谷へと育つ
野生の力みなぎり
車、バス、バイク、救急車、パトカー、霊柩車駆け巡る
暴走族は蜂の群れ

黒い翼が空を叩く今朝は生ゴミの日
御器被りも鴉も
故郷の山や森で食えなくなったので
出稼ぎに来ている

新宿区大久保排気ガスふんだんに振りまかれる道路沿いの
八百屋では
手作り豆腐を売っていて
小学生の頃よく
鍋に水をはって買いに行った

小型ケースに水はたっぷり
豆腐は底でまどろみ
八百屋のおじさんが
すい 
水中からま白な大きな豆腐をすくい出す
四角い包丁を当てて手のひらの上で
すっ と
切る
やさしく鍋に入れて
太腿の上に乗せてくれようとする
すん と     
鍋に泳ぐ豆腐の
冷たくなめらかな矩形
おじさんのよどみない動作
それが
わたしの故郷だ

(へんに太腿が冷たいので見ると
 太腿の上に乗せた豆腐の鍋から水が
 ちゃぷちゃぷとこぼれているのだった)
(ベビーカーに乗っていた頃の一番幼い記憶)




自由詩 故郷 Copyright ふるる 2017-11-28 19:47:32
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