あおい青さためらわず空を切る
ほそい黒さ電線の緊張感
きちんきちんと背の美の電柱
アスファルト ヘイ モノトーンを下地に
立ち並ぶ看板
幼稚園で使いまわしたクレヨンみたく
いろんな大きさ、色、
夜にはぴかぴかリズミカルに光り
入日のビルは黒ぐろした渓谷へと育つ
野生の力みなぎり
車、バス、バイク、救急車、パトカー、霊柩車駆け巡る
暴走族は蜂の群れ
黒い翼が空を叩く今朝は生ゴミの日
御器被りも鴉も
故郷の山や森で食えなくなったので
出稼ぎに来ている
新宿区大久保排気ガスふんだんに振りまかれる道路沿いの
八百屋では
手作り豆腐を売っていて
小学生の頃よく
鍋に水をはって買いに行った
小型ケースに水はたっぷり
豆腐は底でまどろみ
八百屋のおじさんが
すい
水中からま白な大きな豆腐をすくい出す
四角い包丁を当てて手のひらの上で
すっ と
切る
やさしく鍋に入れて
太腿の上に乗せてくれようとする
すん と
鍋に泳ぐ豆腐の
冷たくなめらかな矩形
おじさんのよどみない動作
それが
わたしの故郷だ
(へんに太腿が冷たいので見ると
太腿の上に乗せた豆腐の鍋から水が
ちゃぷちゃぷとこぼれているのだった)
(ベビーカーに乗っていた頃の一番幼い記憶)