源田湯
鶴橋からの便り
鶴橋の町で五〇年 湯を炊いてきた
百草湯の源田のおやじが 今年亡くなった
あれは夏の午後
「湯を炊く」と言い残して赤十字病院で息を引きとった
おやじは享年七七歳
銭湯が寂れる中 おやじはいい時に死んだのかも知れない
おやじの炊く湯は 半端なく熱かった
一度湯に入ると身動きできなかった
身体がジンジンにしびれ 額からは汗が流れ落ちた
この湯が鬱の僕には好みだった
湯から出て 溢れ流れる全身の汗を感じていると
心の奥にたまった鉛のような不安が消えていった
それはどんな精神安定剤や抗うつ剤より効いた
「いい湯だったか」
おやじは風呂上り いつも僕に語りかけた
その語調はまるで扇風機の風のように
僕の身体と精神を扇いでくれた
コーヒー牛乳を飲み干し
銭湯から出る時
「ありがとう」と番台からのおやじの声は
「明日も生きろよ」と僕の心に快く響いた