川向こうの大火 2
TAT
その日は朝から
私は悪魔と双子のパズルを解いておりました
けれども中々解けずにいる私を見るに見かねて
義父はアウディで
私をアウトレットモールまで
連れて行ってくれました
道すがら
おそらくは
負い目も引け目もあるのでしょう
話題を様々に探してくださるのですが
特に義父の出身の京都の小ネタ等
とりわけ村八分であるとか
京都大学西部講堂であるとか
頭脳警察
混血のギタリスト
けれども京都について私は何も知りません
京都についての知識が何も無いのです
或いは私の中に未だ
京都を迎え入れる為の準備が整っていないのだと
義父は私を叱ります
そんな事だからいかんのだと
私はベルトで打たれます
私はそのことが情けなくて
いつも勇気を出してパンツを脱ぎ
先生の仰るように力を抜いてひとつ前のそのひとつ向こうを見るのですが
金閣寺の先っぽが
入口まで来るともう
昨日を信じることが出来ません
明日を夢見ることが出来ません
何しろ弟の金閣寺でさえ駄目なのです
車掌さんや
同級生や
ルンペンの方にさえお願いしてみましたが
何しろどなたの金閣寺でも無理なので御座います
よほど神様は私の操の岩戸を頑丈に造られたと見えて
けれども冬の始まりの空は澄んで高く
風は
いえ
止しましょう
風の描写はいけません
義父の車は
古い型のラスタカラーのアウディで
私はその車が大嫌いです
先週も近所の小学生がしたように見せかけて
ミラーとバンパーに傷を付けたのです
2時ちょうどにモールについて
義父は音楽が好きな私のために
最近よく音楽をダウンロードして夜中に聴く私の為に
ダウンロードした音楽をいくつもしまっておける頑丈な棚を
丈夫な大きい檜の棚を
買ってくださいました
けれども私は泣いていて
泣いていたから湿気ていて
私だけは大火に巻かれませんでした
だからそれがわたしの一番の幸福で
だからそれがわたしの一番の不幸です