流動体 より
沼谷香澄

都市部では人の体を流れゆく水の違いが見て良くわかる

黒い。黒い。水木の樹液たっぷりと飲んで太ったアブラムシども

死であった 指先を病んだ結果の 花瓶の脇の携帯電話

平和に 光の当たらない場所でアカマンボウが海水を飲む

猫は水 太った猫はたっぷりの水 日にコップ一杯の水

生に期間はあって短い死にも期間はあるのだきっととても短い

鈍色の煙の幕をくぐるときまなうらの平原はわたしの中にある

外に出る(くやしい)(私のせいじゃない)空気に混じる水がきれいだ

枯れ枝と思って切った切り口がまだ青かった 飲んでた。ごめん

菜の花や時は東に気は西に身体は乳酸菌の床這う

初出:Tongue8号 2004年6月13日


短歌 流動体 より Copyright 沼谷香澄 2017-11-13 21:44:29
notebook Home
この文書は以下の文書グループに登録されています。
個人誌「Tongue」収録作