境界 より
沼谷香澄

白い水泡立つ水がゆるやかにさくらはなびら運び去ります

眼底はきれいだそうだ わらわべもねこも目玉を狙って来るが

桜葉のトンネル抜けて(抜けないで)(ここにいたいの)孫見せに行く

のど赤きつばくらめって本当にいるんだね春百円ショップ

芙蓉葉のトンネル抜けて(急ぎましょう)(自分で決めた)都心へ向かう

春麗乗換口をくぐる人の後姿のだらしなきこと

チョコレートひとつかじった。チョコレートふたつかじった。みっつかじった。

世界 くらくて さわれない よくわからない 多分名前はないのだ 世界

山は、山は、名前の違うみどりいろ、詰め込み、稜線をこえゆきぬ

目の下に海がある、らしい フェリーボートは、口あけて車を待っている、らしい


初出:Tongue7号 2004年4月30日


短歌 境界 より Copyright 沼谷香澄 2017-11-11 23:05:45
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個人誌「Tongue」収録作