fall into winter
カワグチタケシ

夜はまだ浅い
通りは静寂だ
ドアが開きドアが閉じる
そのあいだだけ
店内の喧騒が通りに溢れる
闇が深まる
夜はまだ浅い

期待が大きい分、失望も大きくなる
まだ柔らかいアスファルトに膝をついて祈る
アスファルトの温かさが繊維を通して膝に伝わってくる
黒い油が膝を汚す
一度洗っただけでは落ちない汚れを

細い指で胸をさすって糸をひきだしていくような
歌声が聞こえる
すべてはどこかでつながっている
と、うたっている
だが、彼女は知っているのだ
命の残るあいだに
決して交わらない線もある

人が指を差すから空はそこにある
悲しみのない自由な空
聞きたいのは聞いたことのない歌だ

**

閉じた窓ガラスを震わせて
目覚し時計のアラーム音が
朝の街路に漏れ響く
駅へ向かう何人かは窓に目をやるが
目覚し時計の持ち主は目覚めない

カーテンを開くと
まず風が、それから白い光が入ってきた。

シャツを着替えて
集めた約束の束を置いて
光の中に入っていく

十一月から十二月、
秋から冬へ
光の中へ
まぶしい光の中へ
一歩を踏み出す
自分の後ろ姿を見ている
光は視界を満たし
あらゆる感覚が失われ
やがてすべてが光になり
まぶしさの記憶だけが
痛みとなって
深く大気に刻まれる
いずれ記憶さえも失われ
光だけになる



contains sample from N.Uehashi & mue

 


自由詩 fall into winter Copyright カワグチタケシ 2017-11-11 00:38:16
notebook Home