無題 3編
北井戸 あや子
信号機の震音(signalとでも、云うか)三角、もしくはサイン
形、波(最後に聴力検査をしたのは、いつだったか)
しらしらした雨が遮断機に重なって、前は幻灯世界のよう(しかし排気ガスを吸い込む幻灯とは、これまた)
遮断機、だなんて、かなしい名前を与えられたもんだなぁと思う
ものがなしいメロディは、もう半ば内耳に溜まって
遮断機はとうに上がっていたのだと知る
(ピパポピした音色)(耳の悪さへ、少しぞっとした)
線路をカンカン叩くヒールについて歩くと
こんなに淋しく、錆びた鉄の香は雨に立った
*
燦々と酸性雨射って、散々
ぎらぎら、両足、群がった見物客
眼が渇いて、乾いて、変わったのさ
「双眼鏡を、呉れ」
異国の興ざめ、つんざいた
憐憫と乗る雑音
脆弱って、頷いた、うんざり
のたうつ喧騒へ吹っ掛けるおれの眩暈
喫い飽きたフィルタアちぎって
風と売る灰と燃す人生
嗤った奴から、死んでいくんだろ
乾々照りなら牢獄さ、嗚呼!
咽越しならとうに
嗄れちまいました
*
影を引き摺った
今日がまたサヨウナラ
手さえ振る暇もなく
傘ならもう、あの日に棄てました
蒼に痩せる暗がりなら星座に腰掛けて
あんたと話しましょう
長くとも直ぐに、拠る空は脆いのさ
喉笛、鳴らしてみた
下手くそな口笛ひずんだ
生真面目に空を穢した朝焼けに
また誰かは泣くのか?
それとも香る外れの雨が泣くのか?