遊歩療法
塔野夏子

遊歩しよう
忘れられた花園を
青ざめた果樹園を
影色の桟橋を
空中に漂う墓標たちのあいだを
谺たちが棲む迷宮を
天使の翼のうえを
玩具箱の中を
空へと伸びつづける孤塔の尖端を
傷だらけの絆を
欠落した記憶を
ふくれあがりつづける阿房宮たちのあいだを
向こう岸を知らない橋を
海王星のたそがれを
光を放つ痛みを
壊れてしまった約束を
不意の心臓の高鳴りを
虹が空に溶けてゆく際を
楽器の内側を
白い鳥が飛び去ったあとの虚無を
硝子細工のような囁きを
見えない旗のはためきを

遊歩しよう
僕らが遊歩することで
生まれる景色
生まれ変わる景色の中を

遊歩しよう
清らかな偶然に出くわすことを予感して




自由詩 遊歩療法 Copyright 塔野夏子 2017-10-19 22:16:59
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