秋の雨/感傷として 五編
ただのみきや

ひび割れ

雨音は止んだが
雨はいつまでも
乾くことのない冷たい頬
満ちることも乾くこともなく
ひび割れている
  悲しみの器



天気雨

泣きながら微笑むあなたが
眩しくて 背中を向けた
やがて七色の架け橋鮮やかに
遠く近く 届きそうな明日へ
勇んで振り向くとあなたはいない
今は昔 もういつまでも



覚悟

冷たくされすぎて
色づいた樹々の
くびれに滴る
秋の睦言
諭すように浸みて
固く秘めた 覚悟



通学路

カラフルな海月の傘をさし
熱帯魚たちはフリフリ歩く
街路の珊瑚サワサワ揺れて
ナナカマド蔦に銀杏 桜も真っ赤
ほら気を付けて 大きな回遊魚!
右見て 左見て



動機

濡れたアスファルトに
倒木のような一人の男
雷に打たれたわけじゃない
今しがた道路に飛び出した
現場検証はできても
本当のことは分からない
滑りやすいし見えにくい
冷たい雨の中
清流の魚みたいに
どうして急に身を翻したか




       《秋の雨/感傷として 五編:2017年10月14日》








自由詩 秋の雨/感傷として 五編 Copyright ただのみきや 2017-10-14 16:08:23縦
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