今日がその日なら
ただのみきや

今日がその日なら
     靴はそろえて

笑い顔で笑い泣き顔で泣く人の
歯に挟まった敗者の長い髪の毛を
結びつけた中身のない御守り袋が
まだ乾かない粘土の心臓をまさぐる赤ん坊の手だ
無表情な未来の素体に隠しきれない恥部を与える
骨ばった拳で片目を塞ぎながらしなければならない
全て馬に乗る者たちの対角に在るために
透明なゆがみを円く配るこぼれ落ちるままに
涙は汚染された美しい言葉のよう
ピンで止められ震えていた
絶えず生きながら殺され続けて
一羽の鷹が気流を踏み外し真っ白い理屈を言って墜落すると
鳩の群れは赤い目をして襲いかかった
ペンキで出来た罵声が街を埋め尽くす
ひどくノロノロと鳩の群れが焼却炉へと進んで往く
反対することは幾らでもある反対が食べ物だから
悪食な孔雀が自慢の扇子で耳まで裂けた口を隠している
憂鬱と不安の朝食をとりながら会話しているようで
本当はみんな独り言だった
気づいた時には手遅れで寄生した被害者意識は肥え太り
思想の中身は食われて残ったのは干乾びて弛んだ皮だけ
それを旗にして振る者も踊らされる者も無関心な者も
みんなテレビの前で昼食をとった短い時間に
アメリカや北朝鮮や中国や原理主義を
分かった気分になって
絶対悪を示すことで正当化する
使い古しの手でも過半数あれば事は足りる
不安をまさぐる余裕がある幸福が厄介なほど病んで
ゲームにばかり真剣になって
国民が政治を動かすのか政治が国民を動かすのか
理想のための現実か現実のための理想なのか
言葉遊びにばかり夢中になって
肉を噛み裂く陶酔の切羽詰まった昂奮の
つまらない正論と屁理屈が溢れ返る季節の
なんとも言えない侘しさが
――好き
アスファルトで乾きながら鴉に啄まれている
ハンザキの場違いなぬめりを瞳に射し
赤でも白でもない青い血糊のパレットナイフで
狙いを定め定まれば己の胸を刺す繰り返し迸る
憂いの秋に山と盛られた生クリームの溶ける堕像が
――大好き
笑い顔で泣き泣きっ面でほくそ笑む
乳白色で我がままな未来へ猫は飛び降りた
冷たい鉄骨

今日がその日なら
     靴はそろえて




            《今日がその日なら:2017年10月11日》











自由詩 今日がその日なら Copyright ただのみきや 2017-10-11 21:31:03
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