そうやって春は来た
ベンジャミン

はずむように近づいてくる
あなたの息は白くない

コートは着てこなかったよ
と言って肩をすくめる姿は
想像よりも少し小さく見える

はじめましてとはじめましてがぶつかって
どういたしまして

それからの会話はあまり覚えてなくて

ただ
あなたの視線を追い駆けて
見つめた先の景色が見つめ返してくるようで
それが眩しかったのを覚えています

三月ですから

話しかけたら開きそうなつぼみとか
語りかけてきそうなふくらみのこととか
一生懸命に説明していたような天気の良い日でした

二つの影が並んで歩いて
いつまでもさわれそうな距離にあったから
いつの間にか帰る時間になっていました

さよならとまたねがすれ違って寂しさになり
けれど次の約束が慰めてくれたから
夜風は寒くありません

あなたの乗った電車の後ろ姿を
見送る先に見上げた星の光が
いつまでもぼんやりと輝いていた

やわらかい眼差しで
あげたままの手のひらを恥ずかしがる

さよならをしたのは冬という季節でした


   


自由詩 そうやって春は来た Copyright ベンジャミン 2005-03-14 09:02:52
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