黄色い階段
宮内緑
遠回りをした先の
二度と通ることもないような裏通りで
黄色い階段をみた
幾重にも黄色く重ね塗りされたような階段
色合いもさることながら
どこへ通じているのか、そもそもここを上る人がいるのか
侘しくもどこか懐かしい、黄色くまばゆい階段
なんのことはない、脇にはイチョウの古木
落ち葉の丹念に敷き詰められた階段
二度と来ることもなさそうだから
その階段を上ってみたり
スケッチがわりに写真を撮ったり
近くにあったいつでも珍客を待ちわびているような
古びた自販機で何か買ってあげたり
そうしようと思ったが、少しの間立ち止まったきり
浮かんだことをなにひとつ遂げずに立ち去った
家に着くと小さな後悔が残った
いつかあの裏通りのことも忘れるのだろう
滑りやすそうな階段も
型式の古い自販機も
その場所がどこであったのかさえも
そしてまた似たような路を通るならば
由来の知れない郷愁にいざなわれるのだろう