蛇の彼女
秋葉竹

死にたくはない蛇も
野山の小さき神として生きていれば
その水性高き躰を痛めつけることもなく

死にいそぐおろかなやつとして
(想像上の)指をさされることもなく
泣けない赤い目をぬらし
最後の力で這い進むこともなかったのに。

彼女のマンションまでたどり着けば
生かされる運命を
(想像上の)てのひらに掴み取れるのか?
もはや時はなく 走りゆく酉は飛ぶのか?

だいいち部屋番がわからないし
わかったとしてもオートロックなら
想像上にしか押せる指はない
時もなく 死にゆくさだめを受け入れた。

ただあの山へかえる自由もうしなった
すべてをほうりすてたドブ川には
いちりんのちいさくて白い花が
咲いていることを彼女はしらない。

その蛇の
悲しかった とち狂った生命の秘密は
真夏のてりつけるま白なひかりを
そいつが干からびるまであび続けたこと。

彼女もその事実を知っているが
「蛇は死んで、財布の皮になったので」
としばらくは笑い話にして
あとはいつもと同じ、思い出すこともない。


自由詩 蛇の彼女 Copyright 秋葉竹 2017-10-08 10:23:49
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