ジョージの妹
Lucy


兄の夢を
たまに見る時がある
5才の時事故で亡くなった
まだ自動車も珍しく
交通法規も今ほど細かく定められてはいなかった
交差点の真ん中で箱のような台に立ち
口にホイッスルをくわえた警官が
白い手袋をはめた両手を
手旗信号のように動かし
毅然たる動作で
交通整理しているのを
見たことがある
夢の中の出来事のようにおぼえてる
街に信号機が登場するちょっと前の時代


お母さんやおばあちゃんは
縄文時代に産まれたの?と
幼い息子にきかれたことがある
あれもなかった
これもなかったと言われ
50年前も1万年前も
昭和も縄文も同じ昔だ


私が生まれる2年前の3月15日
繋いだ母の手をふりほどき
車道に走り出てトラックに撥ね飛ばされ頭蓋骨陥没で即死した兄の名は
ジョージといった

これからの時代は国際社会に通用する名前をつけたほうがいいと
初めての息子にハイカラな名をつけた父は
まだ若く新しい考え方を追う人だった


死んだ兄がいるという話を
父は命日のたびに子ども達に語ってきかせたから
兄はいないのではなく
いる人だった
本当はうちにはお兄ちゃんがいる
それは不思議な実在だった
セピア色のポートレートは仏壇の横の欄間に掛けてあり
顔は知っていた
懐かしい人


私に男の子が産まれた時
少し兄に似ていると思ったりもした

夢の中で兄は成人し
結婚して家庭をもっていた

私をみておぼえているよ大きくなったなと微笑んだ
兄がおぼえていてくれたのが嬉しくて
涙がとめどなく目から溢れて頬を流れた
お兄ちゃんと私は言った
兄は私の名を呼んだ
いつも想っていたんだよ ジニー





自由詩 ジョージの妹 Copyright Lucy 2017-10-03 21:38:59
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