空のグラス
ひだかたけし

目の前にグラスが在る
グラスは透明な水で満たされている
私は喉が渇いていたので
そのグラスの水を一気に飲み干す

空のグラスが残る
ずんぐりとした円柱状の
空のグラスが在る
すぐ眼前に

私は俄に不安になる
すぐ眼前に
ずんぐりとした円柱状の空のグラスが在る?
干上がってしまった!
私は小さく叫ぶ
中身を欠いてずんぐりと円柱状の輪郭だけ保ち
空っぽの何かが在る
私は震え始める
自らの身体の実感が麻痺し始める
中身を欠く空っぽのナニカ!

私は脂汗をかきながら
改めて眼前のグラスを凝視する
それはもはやグラスではない
それは単なる外郭だ
円柱状のガラスの外郭が中身を欠いて渇いている
渇き切っている
水はもうない
中身はもうなくなって
シマッタ物 渇いて渇いて

物そのものと化して
グラスの前でわたし
凝固する
浮遊する
傾斜する
恐怖と諦念に陶然と
肉身を喪失した唐突に己たましい
痛くもない痒くもない何も感じない
ただ恐怖恍惚恐怖恍惚

記憶の奥がぱっくり開く
のたうつ魂の力が干からびていく
光景が鮮やかに浮き立つ

[コレがオマエのシタことだ]

視界を覆う夥しい血液の噴出!

 そういうことか
昏倒間際
わたしの意識がそう呟く
ー只々もう恍惚と





自由詩 空のグラス Copyright ひだかたけし 2017-09-23 15:10:35
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