水玉
カワグチタケシ
夜の公園、移動手段
水から上がったばかりの濡れた髪が
いつもより黒く輝いて
僕はその光りを好ましく思った
かつてその人が指輪を投げた
対岸までの長い距離
指輪が不要になるとは
何かが不要になるとは
どういうことか
その頃の僕はちっとも
理解していなかった
七月、僕たちの頭上に
細かい雨が降る
八月、雨は激しさを増す
僕たちの頭上に
こんなにも大量の氷が浮かんでいて
時折
堪えきれず
融解し
落ちる
地上に不規則な水玉模様を描いて
痛みは薄れ
痒みにかわり
やがて消えるだろう
彼女は朝の
都営地下鉄の駅へと向かう
もう一度生きてみようかな
と
新鮮なためいきをひとつ残して