さくら
小夜

まぶたの裏に咲く桜
遠くまでいけなかった足さきが
ようやく幹に触れる

よいのやみ
想い出を負ってしなる腕から
にじみだしていくほの白いあかりは
去っていった人のみちすじを辿るように
尾を引いて

枝分かれしていく
現在形のわたしと
過去形のあなた

散ってはいけないなんて
誰に言えるだろう
風など無くとも
指さきはふるえて
何かにしがみつこうとするのに

ただ
そこにいたのか
生きていたのか
いつも過去形でしか語られない
存在の不確かさのうえに
枝を離れた花たちが
降り積もっていく

目を閉じても
ほの白くあかるい
まぶたの裏に咲く桜
その満開のしたで会う
いまはない人の指に
指を結んで

けれど
指切りは
手を離さなければ
約束に ならないのだ

ひとつ
あかしがあるとすれば
こんなにもふるえるのは
風のせいではないということ
あなたの未来は絶えたのではなく
わたしのなかへと分かたれたのだと

力をこめて
きっぱりと
指をはなす
てのひらをひらいて
はなびらをうけとめる
この花を
明日へ
連れていく

風もないのに
ふるえる
ふるえる
約束を
する

まぶたの裏に咲く
ほの白いあかりをたよりに
もうすこしだけ
遠くまで
いきます




自由詩 さくら Copyright 小夜 2017-09-03 21:32:06
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