さてどうしよう
ただのみきや

白い羽根のような雲がゆっくりとほどけ
ひとつの比喩が影を失う
意味からやっと自由になった娘らを
解釈は再び鍵をかけ閉じ込めようとする


ああ自己愛
鏡の中にしか咲かない薔薇よ
瑞々しい蕾が重たげに死んでいる
未来を夢見ているかのように
甘く眩暈する香り
貫く棘の痛みも
古い紙袋に包まれた
幸福の予感の記憶


夜のすぐ手前 一面のすすきが揺れている
言葉の中ではなくイメージの中で虫は鳴いている


眠れないこどもの深まるほど冴える瞳孔は
生まれたままの月蝕を湛え宇宙と混ざり合う
「月が浮かぶのは心 そこに実体はなく――
そんな言葉をこどもに言わせるつもりはなかった


ちょうど意識が落ちて夢が目覚める頃だ
鶏が知性を連れて滑り込んで来るのは
この子のために遮光カーテンを引いたら
歩かねばならない陸に上げられた魚のように


朴訥にほどけながら
記号化され
暗号化され
ほとんど無感覚だけど
忘れてしまった何かがしこりになって
肺呼吸が 少しつらい
詩行から娘らの顔が覗いている
行と行の境目から
「あなた次第なのに……
どぎまぎしながら能無しだった




             《さてどうしよう:2017年9月2日》










自由詩 さてどうしよう Copyright ただのみきや 2017-09-02 20:42:11
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