もう僕らの時代ではない
はだいろ

会社で、総合職の若い人たちが、
僕なんかもちろんはるか後ろに置いて、
出世してゆく
それはそれで良い
会社の姿勢だ
だけど僕は僕で生活しなければならない

僕も若い頃は、
というより多分、独り身だった頃は
自分を何によって立たせるべきか、
ということを、
真剣に考え、それは、誇りであり、
善であり、美のようなものだったと思うけれど
今は生活そのものが
生きる目的である

電車では前のシートも横を見ても
皆スマホの画面を眺め
僕はこの頃とてもよく本を読む
サマセット・モームが面白くてしょうがない
ビルドゥンクスロマンが昔から好きである
次郎物語とか面白かったなあ
そして僕は十分な成長はできず
そういえば
ずっと昔
さなぎから羽化しようとしている蝶をじっと見つめていたら
蝶がうまく羽を広げられないままになってしまった
あんな感じ


もう僕らの時代ではない
もちろん僕らの時代があったのかは定かではない
でもきっとあったのだろう
そもそも僕は自分の同世代が大嫌いである
まるっきり馴染めたこともない
ただそれでも僕は
生活しなければならない
早く年金生活に入りたい、
僕の夢は定年退職である


途方もない夢を見て
息もつけないようなときめきに悶え
ただ自分への恥じらいや同じくらいの憧れや
海に
風に
空に
君に
涙さえこぼしていた僕の
夢は今
無事なる定年退職である







自由詩 もう僕らの時代ではない Copyright はだいろ 2017-08-30 20:48:30
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