魂の遍歴の旅
うあすっしー
魂の遍歴の旅。
草原に立っている。いったい、どこから歩いてきたんだろう。はるか遠くの地平線のむこうへ、小さな夕日が沈んでいこうとしている。その輝きの美しさに思わず見入ってしまう。
小さな村を見つける。ゆるやかな起伏に沿ってつづいている畑では、母親と小さな子どもたちが素手で土をいじっている。その土の豊かなことは、空気と風のにおいで、なんとなくわかる。母親は畝を立て、子どもは雑草の根っことミミズを掘り出して遊んでいる。「盛り土を踏まないよう、気をつけて。」異国の言葉でおそらくそう言ったのだろう母親が、腰をあげ、こちらに向けて、ひまわりのように、にっこりと笑う。
この自然すべてを抱いてまわる大いなる地球と、ここで生まれ、受け継がれてきた文化から垣間見える人間のしたたかさに畏敬の念を覚えながら、魂が洗われていくのを感じる。
魂の遍歴の旅。
男は、使い古された三輪自動車を、馬車よりも遅い速度で、南方へ向けて運転していた。村に近づくにつれて、かつて、その自動車が村へ運び込まれたときに人々があげた、あの熱狂にみちた歓声が、いまでも聞こえてくるように感じられた。やがて男は運転席から村に向けて、トーチを握った手を高く掲げて振る。夕闇のなかを、暖かくてやさしい灯りが、みぎへひだりへとひかりの尾をひきながら、おどけるように踊っている。
魂がうずいている。生きようとしているのを感じる。
小さな村では、家族たち、親戚たち、姉妹たち、兄弟たち、友人たち、子どもたちが、同じ火を囲んでいる。
楽器を弾いている。
魂の遍歴の旅。
草原のまっただなかを、果てしない彼方まで続いている、鉄道のレール。私たちは覚えているだろうか? かつて、このレールのうえを、鉄に覆われ、火薬をずっしりとつめられた、重い砲弾が無数に運ばれていった。列車はいまもとぎれることなく、走り続けている。
深夜、私はその村を背にする。
魂の遍歴の旅。
散文(批評随筆小説等)
魂の遍歴の旅
Copyright
うあすっしー
2017-08-27 00:10:53