初秋
本田憲嵩

湖畔の公園
鬱蒼とした森の道
イヤホンの耳栓で
外界を遮断しながら
今日もコーヒーショップで
光熱費と時間を減らし終えたのち
その黒く湿った撓垂れから
さらに咽る風を送る
帽子を目深に被りながら
求道する虚無僧のようにひたすらに歩く毎日
その男の殺風景を映し出す眼に
かろうじて色彩を与えている
鮮やかなコスモスや毒々しいダリアの類
もはや
さびしく物思うことにすら麻痺しつつ
ジレンマの夏の森を通り過ぎた男
ゆえに盗み見る
熟れすぎて垂れ下がった瓜ふたつ
ゆえに盗っ人の手のすばやさで食べる
他人の家の庭の
イチイの赤く甘い実 萎びきったグズベリー
その後方から
せかせかとした走り方で急に通りすぎてゆく
自転車と灰色の犬
彼を意図せずに急かす



自由詩 初秋 Copyright 本田憲嵩 2017-08-25 00:04:54
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