無人駅 ~ジョバンニ発、カンパネルラ行~
ハァモニィベル

哀しみは、この駅の1番線に到着し、9番線から出るという。無人駅は、待つ人は疎らで、降りる人ばかりがやたらに多い。1番線にやって来る列車は日に何本もあるが、9番線からは滅多に出て行くことがない。俺はそんな無人駅で、一人きみを待っている。

君がいま、小さな切符を手にしているのは、大きな決断をしたからに違いない。きみを乗せた列車は、今どの辺りを走っているのだろう。いつだったか、君が、「駅のベンチって、公園のベンチより冷たく感じるけど何故どうして?」と訊いたのを、俺は今、思い出している。

切符を買った瞬間から、ひとは、駅と駅の間をただ移動するだけのモノになる。ただそれだけのモノが座るイスは、どこか寒々とした景色の感触を持つのだろう。俺には、東京駅も、新宿駅も無人駅だ。

君は今、どの辺りを走っているのだろう。ホームの下に、モノと化した俺達を繋ぐレールが見える。その千数百円のレールから軽やかに、モノでない君が、俺のホームに降り立って笑いかけるのを待ちながら、日に何本も到着する1番線の列車を背中に見ている。もうすぐ、君の到着する時刻だ。そしたら、同じ行き先の切符を買ってふたりで心から笑い合おう。













自由詩 無人駅 ~ジョバンニ発、カンパネルラ行~ Copyright ハァモニィベル 2017-08-19 22:16:12
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