【 盲導犬 】
豊嶋祐匠
我が家に
1匹の白い子犬が加わりました
盲導犬という
訳ありの宿命を持って
我が家で
ひと時の愛を教えられる為にです
彼が
我が家に来たことで
喧嘩ばかりの
お母さんも、お父さんも
弱虫な小学生の
お兄ちゃんも
受験でピリピリの
お姉ちゃんも
みんなが
この
1匹の白い子犬を囲んで
父と成り
時には
母と成りました
そして
愛を与える困難さと
命のかけがえの無さを
この
1匹の白い子犬によって知るのでした
この
1匹の白い子犬は
成長と引き換えに
我が家を出て行く
運命にありました
円満を取り戻した
お母さんもお父さんも
逞しく背が伸びた
お兄ちゃんも
新しい世界で輝きだす
お姉ちゃんも
みんなが
人知れず
この悲しい日が
来ることを嫌っていました
不慣れな
ハーネスをつけられた
少しばかり
窮屈そうな、この白い犬に
みんなが
さよなら、がんばれよと
犬の体を
クシャクシャに抱き寄せながら
最後の
お別れの言葉を贈りました
すると
この
1匹の白い犬は
けして我が家を
振り向くこと無く歩き出しました
この
1匹の白い犬を頼りにする
新しい家族となる
盲人の元へと走り出すのでした
この
1匹の白い犬にとっての
愛の在り方とは
名残り惜しむ
我が家の瞳に
応えることではなく
愛を与え継ぐ
盲人の目となること
それが
これからの
自分の役目であり
何よりも
名残り惜しむ
この我が家から
教えられたことだと、悟ったからなのです。