スタンドアローン
ホロウ・シカエルボク
すでに枯れ落ちた花のことを
長々と誰が語るだろう
赤茶けた花弁は路上に削られて
瞬く間に塵となるだろう
聖堂から微かに聞こえてくる祈りは
人間以外の何をも救うことは出来ない
言葉で語られているから
当然と言えば当然のことだ
遠い過去に死んだトランペット奏者の息遣いが
使われなくなった水汲みポンプの側で
あるはずだった未来について話している
野良犬が通りすがりに少しだけ気に留める昼下がり
安いウィスキーのボトルが転がっている
飲み干された一夜の夢がその中で骨になってる
酔いのせいなのかそのそばに捨て置かれたどこかの部屋の鍵は
運命について考えているかのように傾いていた
巨大な木材と針金で入口を塞がれたショッピングセンターの廃墟は
壁の煉瓦が少しずつ崩落し始めていた
まだ誰をも無条件に愛することが出来た幼いころに
その入口は天国への扉のようだった
年代物のコートをまとった
安物ワイン漬けの年代物の男の浮浪者が睨み付ける裏通り
その眼光は怒りにも悲しみにも見え
そしてそれ以上何も語ろうとはしなかった
パトロール・カーがけたたましく喚きながらどこかへ疾走していく
真剣な表情でハンドルを握る警官は
後手に回らざるを得ない正義についてどうしようもなくいらだっているように見えた
すでに流れた血を救うしかないモノトーンとフラッシャー
労働者風の男がダイナーで飲んだくれている
目の前のどんなものをも見ていないような目をしている
カウンターのラジオからはまだチンピラみたいだった頃の
ブライアン・アダムスのガナり声が聞こえている
イエロー・キャブから降りてきた女は何事か運転手に言い捨てて
後部座席のドアに強烈な前蹴りを入れた
ハイ・ヒールの形にへこんだそのドアを確認することもなしに
運転手は首を振ってアクセルを踏み込んだ
まだ若い泥棒がフードショップの親仁に首根っこ押さえつけられて
とても文字には起こせないような言葉を叫んでいる
いつか彼が大人になった時に
そんな言葉を使ったことを恥じることが出来たらいいのにな
すでに枯れ落ちた花のことを
長々と誰が語るだろう
夕暮れが来る前に何らかの奇跡が
この街に降りてくることはあるだろうか
ポケットのキャンディの包みを解いて口に放り込むと
煮詰まった砂糖の味がした
顔をしかめながらパーキング・スペースのある角を曲がると
ブタ小屋のドアが開錠されるのを待っている