るるりら

連綿と うけつがれてきた舟箪笥は
表の扉を開けても 次々と扉や引き出しが現れ
忍者屋敷のように 底板こそに 隠れされた空間があったりする
舟が沈んでも 大切なものが収納され金庫として利用されていた 
この箪笥だけは 海に浮くように設計されているらしい

どこからか
せせらぎの音がする


おもえば
多くの引っ越しを経験した箪笥だが
なぜかいつも せせらぎの近くにこの箪笥はあった
いまの家も近くには  小川がある
ただ 日照りがつづいて すっかり水が枯れている

あれ?せせらぐ


水音は、箪笥の中からのようだ
潮の声が聴こえる
幽霊船のようなはずの遠い郷里が 色めき
竜骨や船材が ぎいぎいと音を立て
塩分のある しぶきがあがる

クーラーの効きの悪い部屋で
汗だくで立方体の箪笥を磨きながら
ふときがつくと わたしは笑ってしまった
わらっていたんだよ 
黒光りする蝶番を持つ立方体
中身は からっぽのはずの金庫が



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Lucyさんの 作品「せせらぎ」にインスパイアされました。



自由詩Copyright るるりら 2017-07-24 09:52:42
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