混血神話
ただのみきや

夕日が朝日へ生まれ変わるように
死は生と生のはざまの休息だった

あと少し もう少し
満ち足りて安らかに

しなやかで純粋な生の欲求
飼いならされて往くプロセスで

ただ月や星の光が深々と
言葉も文字もなく降り積もる夜があった

やがて明けに染まった雲海から
あふれ出した光を目蓋で仰ぎ見て

からの器を差し出すかのよう 知らぬ間に
扉を開けていた その所在さえ気付かないまま

太古の記憶のようで
遥か先の幻視のよう

だれもが良く見知った事柄と
だれ一人見たこともない事柄が

捻じれながら一つの輪を結んだ
神話は優しく 嫉妬深い 母の乳房

天才や英雄は神々
淘汰される側にはいつも残忍な

風土に根差した生業の連綿
砂漠の草は細々とだが絶えることはなかった

時世に乗り合わせた人々
都市に寄り付いた人々

繁栄と衰退の砂時計
征服する者とされる者

天を満たした白亜の宮殿も
夏の入道雲 積まれた石はただの石ころへ

いのちしか持ち出せなかった人
夢をこっそり持ち出した人

追われて追って 綿毛のように
故郷から遠く帰らぬ旅路の果て

繰り返し 交差して
山を越え やがて海を渡り

どの民族の古い歌にも
一抹の郷愁を憶えずにいられない

たぶんわたしも混血 たどれない
絹より細いこの糸がどこから来たかはもう

いくつもの民族が交差したのだ
奪い合い殺し合い 愛し合い子供を産み

ナショナリズムより何層か深いところ
見知らぬ鏃や土器の欠片が埋まっている

血の流れの轟きに混じりながら 時折
文字もことばも持たない幾つもの細い支流の囁き

今はもういない 悲しく野蛮な面持ちが
夢の泥土からすっと浮かんで見せる





                《混血神話:2017年7月11日》






    




自由詩 混血神話 Copyright ただのみきや 2017-07-12 20:50:26
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