the unseen
ひさし


寺の裏庭から三、四人ほどの声がする
住職と仕事終わりの植木職人たちだろうか
朽ちた切り株を囲んでいるようだ
もう無理かね
もう無理だね
夕暮れが沈黙に呑まれていく
声と音が遠のき
九十年前の湿った空気が湧いてくる
深く吸い込むとくしゃみが二回出た
気配を濃くしながら
うしろの老女がもたれ掛ってくる
無理かね もう無理かね
心の底を冷やす声だ
西の空に三日月と金星が並んでいる
ちょうど死体と魂のようだ
止めていた息をゆっくりと吐く
うしろにはまだ老女がいる





自由詩 the unseen Copyright ひさし 2017-07-11 00:01:02
notebook Home 戻る