秘密のラッコ隊
ただのみきや

この糸のほつれをそっと咥えて
赤錆びた握り鋏はその蓮の手の中――
信仰と諦念のうてなに眠る 享年「  」


景色の皮膚を剥がした 
耳は遠く
階段を上り下る 
橙色の帽子
あなたの膝が笑うなら 
わたしの脾臓は歌います
鯨の蒼い喉歌
天使の純化された本能で


ギスギスした鉄の鎖がこの腹の中遠慮もなく
引き千切っては何もかもひっくるめて串刺しにして
引きずり回す蒸気機関の熱く冷たい一途さ
下腹部から眼裏まで閃光が逆走する
過去の唇の踊りがミスコンみたいに並んでいた


紙袋を被る
小さな眼孔
雑居ビルの背中を錆びた釘で
――曇り空だった
特別な意味を含むような丁寧さと
大人のそれではなく子供の精一杯
それくらいの力で
リズミカルに刻む
緻密で昆虫的 幾何学模様
全く言葉なんて


物分かりのいい犬のように顔色を伺う
やさしい醜さが良薬だった
賞味期限切れの病死人ミイラ
青酸カリーライス
薄めに薄めた死の上澄みへ
次々と恋人は飛び降りた 列車から
ビルから 脳から 回転木馬から
花弁みたいにヒラヒラと


職務質問する警察官にも似た良心に取り憑かれ
不感症の拘束衣を着せられた
生真面なパフォーマンス集団の肉の歯車の軋み
そのラジオ体操の真顔な下手くそさは
月に一度しか会うことを許されないまま生の晩秋に至った
不倫カップルのSMプレイの哀哭に勝る
笑え裸の王様を! 裸のラッパ吹き集団よ! 
まともに音を鳴らせなくたっていいさ 大衆の特権だ


まともに答える気はない
便箋を破いて取り出した手紙を読まずに再び戻すくらい
芝居がかって
内心ニヤニヤ
裸が見たいか
握りつぶしたいか
フロイトのアイスが無意識から溶け出して
袖まで垂れて汚してしまう
甘い微熱の砂嵐
自作自演の 自暴自棄の 自画自賛の
汚れた下着
生きている匂い


どちらも銃を突き付けられたい者同士だ
マーガレットの花に囲まれていた六月の快楽と共に
剥ぎ取られたい肉体がある
ラビの帽子に骰子を振るように
斜めに
ゆっくりと
切り裂いて眼差しは円くヒップラインを撫でた
やわらかい日差しはアスファルトの裂け目まで


確信犯の鉛筆くらい
すでに言葉は
捲られる思考の向こうまで前世の
悪因並みに透明な痕を
いつまでも続く航跡のように波のゆらぎに踊りながら
まっぷたつな世界


信仰の諦念よ
すでに捧げ得るものはなにもなく
空のまま差し出す両のうてな
天から蝶が舞降りる


生肉を齧る子供の犬歯
鈍い痛みを親の世代へ
親はその親へ
反抗は時間と血を上流まで遡る青い波
自転の内側でプレートが動くように
狂気をその腕の中に抱きしめた
諧謔とイロニー
「ざまあみやがれ」
宇宙の耳にささやいた


なにかと現代的で不確実な言葉の立体を
嫌っている蠅のように増え過ぎた文字を
鬱陶しく思いながら
アフロビートの葬送行進曲に乗せて注げば
耳から溢れる
机の上
一夜にして水没した遺跡群
溺れた目のない死体の夢が脳に射精する
退屈よりも事故が嫌いなのにだ
朝が来ないようにと祈るすでに朝の光の中で
オレンジを剥くよりも早くオスカーがピアノを叩く
終わりを探しあぐねネクタイで首を絞めると
青い柄が微かに冷たくて心地よくて
癒しがたい正気が秒針でチクチクといやらしい




                《秘密のラッコ隊:2017年6月28日》










自由詩 秘密のラッコ隊 Copyright ただのみきや 2017-06-28 21:51:55
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